やはり名作には触れてみるもの 「不如帰」 ネタバレなし

不如帰(ほととぎす)徳富蘆花 作

学生時代、ほとんど本を読んでこなかった私だが、高校の頃、「国語便覧」というサブテキストに紹介だけしてあった記憶がある「徳富蘆花」という近代の作家。タイトルはうろ覚えだったが、不如帰と聞いて、当時のテスト対策で覚えたことを思い出した。

昨年辺りから読書が習慣になりつつあったが、小説にはあまり触れてこなかった。熊本に徳富記念館という場所があり、古い趣のある日本家屋があるでいつか見てみようと思っていたが、熊本地震で長らく閉館していたこともあり、遠ざかっていた。

今年(2026年)、熊本を離れることになり、その前にと思い立ち、訪ねてみた。時代を経た質の高い日本家屋は素晴らしく、縁側と大きな樹木が生い茂る庭も素晴らしかった。モダンな意匠の鉄筋コンクリート造の記念館には、徳富蘆花と兄でジャーナリストの徳富蘇峰、二人についての展示や解説があった。さらには学芸員の方に丁寧な案内も頂いた。

その中で蘆花のエッセイ集「自然と人生」の一節が、模造紙のような大きな紙に書いてあり見上げるほど高く天井際に貼ってあった。その一節は忘れてしまったが、その文章から何気ない穏やかな自然の様子が頭の中に重い描けるような心地よいものだった。帰りに図書館で借りてみるかと思って記念館を後にした。

図書館へ着くと、幸い「自然と人生」が書棚にあった。これは徳富蘆花の2番目に有名な作品らしい。手にとって読んで見ると、文語と口語が混在する明治時代の古い文章(雅文調というらしい)で、読み進めるのにハードルが高く感じたため、脇にあった「不如帰」を手に取った、本を開くとこちらも少しの手強さはあるものの、充分読み進めることができる程度だったので、安心して借りて帰った。

この「不如帰」も「自然と人生」と同様に、文章から場面の情景が色付きで鮮明に脳裏に描き出されるような表現が多いように感じた。そして、明治時代のノンフィクションではないかと思えるほどのリアルで精緻な設定がなされており、文章の難しさを度外視できるほど、その世界観にすぐに没入できた。

この物語はとある若い夫婦が「家制度」「戦争」「病気」に翻弄され、数奇な運命をたどることになるのだが、ストーリーの展開は動画に慣れた現代の我々を飽きさせることがないと思えるほど、早く展開して行き、全く退屈な所はない。その上、様々な脇役達の表情や顔色まで想像させるような文章に惹きつけられてしまう。

あっという間にラストまで読み進めてしまい、感動と清々しさに包まれて本を閉じた。現代より圧倒的に娯楽の少ない明治の人々がこの物語に熱狂し、ベストセラーになった理由もよく分かる。やはり名作と呼ばれる本は是非とも読んでおくべきだと、真に思わせてくれた一冊だった。




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