
「則天去私(そくてんきょし)」
「私利私欲を捨て去り、天に従い自然の流れに身をまかせ、より高い境地に到達する」という意味を持つ、夏目漱石が遺した晩年の造語である。掛け軸にしたためるに、この上ない言葉であると思う。良い意味でどこか力が抜けた筆跡に、親しみやすさを感じながら、こころの姿勢を正したくなった。

ここは熊本市中央区水前寺公園にある、夏目漱石 大江旧居。元は大江村(現在の新屋敷)にあった建物がこちらに移築されているということだった。
燕帰草堂(えんきそうどう)という素敵な「館銘」がついている。私なりに解釈すると「燕(つばめ)が(巣を作る)時期になると帰ってくることはあるけれど、それ以外が取り立てて言うこともない粗末で寂しい建物ですよ」と静かに、へりくだって表明しているような銘が非常に良いなと思った。

数寄屋門と金属の縦格子フェンスも時を経て、違和感の少ない様子となっている。


建物内外、どちらから見ても印象的だった丸窓。たった一つの円に癒される。

火鉢がある廊下。いかにも猫が転がっていそうな佇まい。


実に綺麗に保たれている建物で、2面の縁側も良いものなのだが、個人的に唯一残念なのが、移築された建物であるため、外周が砂利敷きのみとなっており、土地と建物の分断を感じてしまう。これから先、建物と庭が一体と感じられるような「庭屋一如(ていおくいちにょ)」のスタイルへ近づいてゆくと良いなと思った。
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